鉄道小バザール
ネパールに鉄道があることは、10年ほど前に知りましたが、まさか乗車することになるとは、思いもしませんでした。情報が少ない中、うまくいくやら…
初掲載:2024年1月 Last Update:2024年1月
(はじめに)ネパールの鉄道事情
中国の偉い方がチベットからカトマンズまで鉄道を敷くぞと言っていますが、現状(2024年1月現在)ではネパール南部の「ジャナクプル鉄道」という路線しか存在しません。南部は平地が開け、人口の多いインドと地続きなので、もっとあってもいいのかなとも思うのですが。
その「ジャナクプル鉄道」とは、インドのジャイナガルとネパールのジャナクプル、そしてバンハ(ビザルプラ)間、およそ51㎞を結ぶ鉄道です。インドに木材を運ぶ目的で1937年に開通しました。当初は762㎜の狭軌鉄道で、屋根上にも人を乗せて走る様子の写真は、そこそこ有名です。
インド側にはジャイナガル駅だけ存在しますが、インド人・ネパール人だけしか国境を越えることができません。日本人は一つ手前のカジュリ駅までしか行くことができませんでした。
2014年にいったん休止。2022年4月、改軌して他のインド鉄道と同じ1,676㎜の広軌となり、ジャイナガル=クルタ間34.1㎞が再開しました。その際、カジュリより更にインド国境側にイナルワという駅が開設。更にクルタ=バンハ(ビザルプラ)間17.1㎞が2023年7月に再開しました。
<2023年12月現在の時刻表(全列車・主要駅掲載)>
Bhangha (Bijalpula) |
Kurtha | Janakpur Dam |
Baidehi | Khajuri | Inarwa | Jaynagar <India> |
|
0㎞ | 17.1㎞ | 22.9㎞ | 32.6㎞ | 42.5㎞ | 48.0㎞ | 51.1㎞ | |
1Down ⇒ | 0730 | 0813 | 0830/35 | 0858 | 0920 | 0935/37 | 0955 |
2Up ⇐ | 1115 | 1037 | 1022 | 1010/12 | 1000 | ||
3Down ⇒ | 1145 | 1208 | 1232 | 1247/49 | 1315 | ||
4Up ⇐ | 1510 | 1434 | 1412 | 1355/57 | 1345 | ||
5Down ⇒ | 1515 | 1540 | 1604 | 1616/18 | 1640 | ||
6Up ⇐ | 1915 | 1818 | 1800/05 | 1734 | 1707 | 1655/57 | 1645 |
黄色枠内が乗車した区間
バンコクからカトマンズ経由でジャナクプルへ
バンコクからカトマンズに到着し、そのままジャナクプル(Janakpur)に飛行機で移動しました。ジャナクプルはカトマンズの南東、プロペラ機で25分ほどの距離にある、インド国境近くの都市です。ホテルでタクシーの予約をして、翌朝のジャナクプル鉄道乗車に備えます。
ジャナクプルで一番高そうなホテルを予約したのも、朝の移動を確実なものにするため。タクシー代が3,000ルピー(=3,360JPY)と言われ、高いなぁ、と思っていたが、仕方ない。カトマンズと違い、タクシー自体が存在しない可能性があるので、良しとしよう。
ホテルの車で日の出前に出発
5時少し前に目が覚める。前日、バンコク・スワンナプーム空港のローソンで買っていたメロンパンと日本から持参したインスタントコーヒーで朝食。建物を出たところで待っていてくれとのことで、タバコを吸って待っていると、程なく車がやってきた。なぁんだ、タクシーではなく、ホテルの車だ。SUVぽい車だったので、舗装していないところでも大丈夫そうだ。
左下の車でジャナクプルからやってきて、ホームに直接乗り込む
駅の時刻表、正しい?
プラットホームを歩き、駅舎に到着。切符売り場でインドとの国境沿いにあるイナルワ(Inarwa)までと告げる。駅員がロールになった紙をちぎり、ボールペンで必要事項を書き込む。その内容をノートにも転記。いわば台帳なのでしょう。車中はガラガラなのでオーディナリー(2等)で大丈夫。120ルピー(=134JPY)でした。
バンハ(ビザルプラ)駅舎 ボールペンで手書きの切符
ただ、切符売り場の右に掲出されていた時刻表は、ネットに載っていた最新の時刻表の「前の」もの。最新の時刻表とは旅行に出る直前に「2080年7月24日(現地のビクラム暦:西暦2023年11月17日)から変更する」というネパール鉄道株式会社のHPに掲載されていたのを、スマホカメラのグーグル翻訳アプリで「読解」したもの。
まだ、1週間ほどしか経っていない。切符売り場の右に古い時刻表を掲出したままというのも、日本人の感覚からは考えられず、「『読解』が間違っているのかも…」とも考えられます。バンハ始発が両方とも7時30分なので、どっちが正しいかわからない。「イナルワで折り返し」「イナルワより手前のバイデヒという駅で折り返し」を両にらみで進むしかない。
車内はガラガラのまま、7時30分、定刻に出発しました。
座席は2人掛けと3人掛けのクロスシートで、日頃私たちが乗車している列車と何ら遜色はありません。乗り心地は快適そのもの。朝霧の田畑の中を快走します。あっ、踏切だ。意外にもちゃんとルールを守っているゾ。
出発前の車内 幻想的な景色
ロハル・パッティ(Lohar Patti)駅を越えると、大きなカーブを左折して進みます。少しずつ乗客は増えているが満員にはほど遠い。
ジャナクプル・ダムで満員に
2023年7月まで終点だったクルタ(Kurtha)駅に到着しました。その後、静かに東進し、8時30分、定刻にジャナクプル・ダム(Janakpur Dam)に到着。すると状況が一変します。駅に待機していた人々が一斉に乗り込み、満員に。立っている人もいる。駅の北側には牧草を食む牛と遠くにバラックが。牧草地は人々が捨てるゴミがあちこち散らかっており、美しいとは…。
満員の乗客を乗せ、ジャナクプル・ダムを出発しました。2つ先のバイデヒに2分しか停車しなかったので「新」時刻表が「真」時刻表であることが確定しました。これでイナルワまで行って折り返すことができます。つまりジャナクプル鉄道をほぼ完乗できることになりました。
ただ、沿線には並行する道路もなく、農地の中に線路があるだけで風景の変化はあまりありません。駅舎も掘っ立て小屋のようなところも。本当に何にもない鉄道、それがジャナクプル鉄道、のようです。
この先はインド 左側がインド方面の駅舎? |
最上部がイナルワ駅 赤線が国境 左下がジャイナガル駅 |
イナルワで待機していた編成 凹んだ部分は本来はエアコン機器設置場所?(2等なのでエアコンなし)
駅舎から外に出る。なぁ~んにもない。タバコを吹かし、ジャイナガルから折り返してくる列車を待つ。と言っても、30分もかからない。戻りは1等に乗ることも頭によぎったが、2等(60ルピー)でいいやと、高をくくった。おっ、ここには正しい最新の時刻表のタペストリーが掲げられていた。バンハの駅もちゃんとしとけよ、と独りごちた。
ゆるいねぇ~ 2等で充分? ジャナクプル行きを待つ
インドからの列車は超満員
10時10分に来る予定だったが、5分ほど遅れてジャイナガルから列車がやってきた。遅れはたいしたことないが、扉のところから多くの人が飛び出て見える。満員の証拠。人を少しかき分け、車両の真ん中あたりに陣取る。当然席はない。1等にしておけば良かったと、少し後悔。1時間立ちっぱなしか…
やさしいお爺さんがポンポン
往路とは逆に左に大きくカーブしてカジュリに到着。ペットボトルの水、ココナツの小片(おやつ?)、揚げパンもどきなどが車内外で売られている。
その様子を写真に撮っていると、おなかあたりをポンポンと押される。ふと見ると、席に座っているお爺さんが席の脇にスペースを作り、ポンポンとたたく。「ここに座りなさい」ということか。
お爺さんは2人掛けシート真ん中の少し前部分に座り直し、更にスペースができた。ぺこんと頭を下げ、お言葉に甘えることにする。助かった~。
深く腰掛けることはできなかったが、立っていることを考えると楽だ。車中は立っている人がかなり増えてくる。おばあちゃんは床にぺたんと座り込んでいる。この方が楽だろうな。
こういう所の食べ物って100%茶色い 3人掛けに4人以上座り、まどろむ。これですよ、これ
ジャナクプル・ダムに到着。降りるのにひと苦労
ヒンズー教の聖地でもあるジャナキ寺院を参拝するためにインドからやってくる人が多いのだろう。サリーを着た女性が多い。
4分ほど遅れて終点のジャナクプルダムに11時19分到着しました。完全に停まる前に、ホームから乗客が乗り込んでくる。時刻表によると30分後にジャイナガルに折り返すが、満員が必至なので少しでも早く席を確保しようと殺気立っている。
おかげでなかなか降りることができない。扉付近では口論をしている人もいる。降りるのにもひと苦労。「降りる人が先で、その後乗車」という習慣がないのだろう。プラットホームを歩いていても、まだ列車では「降ろせ」「乗せろ」の喧噪が続いている。
ごった返すプラットホーム 「降ろせ」「乗せろ」の応酬
朝、バンハの集落で見たミティラアートが、プラットホームの壁に数多く掲げられており、漫画チックな画風は日本人にとっては親しみを感じます。何枚か写真に収め、駅を後にします。駅前通りを歩いて、前夜訪れたジャナキ寺院を再訪しようか。
ジャナクプル・ダム駅の切符売り場 駅前広場
ジャナクプル鉄道準完全乗車には、このスケジュール一択
上記の時刻表でもわかるように、北部分のバンハ=ジャナクプル間は1日1往復しかなく、折り返しによる往復移動はバンハで1泊しない限り不可能です。グーグルマップを見てもバンハ付近に宿泊できそうなところは全くありません。南側のイナルワも同様です。両駅とも付近にタクシーどころか、トゥクトゥクもありません。
だから、朝、バンハ7時30分始発の列車に合わせてタクシー(チャーター車)をジャナクプルから飛ばすしか方法はありません。乗車1週間前までの時刻表だと、前述のようにイナルワまで行くと、戻りは本当に何もないイナルワで5時間無駄に過ごさねばなりません。車もないので、身動きがとれません。確実な唯一の方法は約25㎞を歩いて戻ることだけ。
その意味では、改軌後のジャナクプル鉄道準完全乗車(ジャイナガルは行けないので「準完乗」)を最初に果たした日本人は私だと、ここに声高らかに宣言いたします(なんのこっちゃ)。
偶然、準完全乗車
当初は、クルタ=イナルワ間の乗車しか考えていませんでした。というのも、クルタ以北が開通していたことを知らなかったからです。
旅行1か月前に「2023年7月16日にクルタ=バンハ間開通」の報をネットで見つけ、時刻表を探し出し、準完全乗車ができるか思案。筋(スジ)的に良くなく、頭を抱えました。ジャナクプルは高級ホテルを予約したのも、「いい情報を聞き出せるのでは?」「車を1日チャーターすることも視野に入れた」ためです。
すると、旅行直前にダイヤ改正のネット情報を見つけました。こっちのほうが時刻表の筋(スジ)がいい。1編成ですべてのスケジュールを埋めることができる形になっていました。
ただ、見つけた最新の時刻表はPDF。記載の文言はスマホカメラ越しのグーグル翻訳(ネパール語⇒日本語)なので、精度の信頼度は少し落ちる? ネパールの暦(ビクラム暦)で掲載されていることもあり、不安のまま、ネパールへ旅立っったというのが真相です。
「世界の鉄道紀行」(小牟田哲彦著 講談社現代新書刊)
昔の狭軌時代のジャナクプル鉄道について記した章(「ヒマラヤの国際軽便鉄道」)があります。氏はビザルプラ(バンハ)へ列車で向かい、検査車両で戻ってくるという神業で北方面をクリアしています。さすがにこんな奇跡をあてにすることもできず、私なりにプランを練ったのが上記の行程です。
ネパール鉄道株式会社HP
https://nepalrailway.gov.np/
時刻表はここが一番正確と思います。しかし、現地語かつ現地の暦なので、読解にはグーグル翻訳等工夫が必要です。
ジャナクプルで宿泊したホテル ジャナキ寺院